SPY-6をデジタルスレッドで

設計プロセスは、マサチューセッツ州アンドーバーにあるレイセオン・ミサイルズ＆ディフェンスのイマーシブ・デザイン・センターからスタートします。

センター内の幅32フィートのLEDスクリーンでは、セラフィニが望むほぼすべてのものを精密なレンダリングで映し出すことができます。そうすることで例えば、世界中のユーザーがバーチャルに顔を合わせ、SPY-6レーダーやそれを装備する艦船に足を踏み入れたり、生産工場を訪れたり、戦地を体験したりといったことが可能になります。VRヘッドセットHoloLensを装着すれば、施設や自宅にいるユーザーがSPY-6モデルと交信することもできます。

アンドーバー以外にも世界5拠点、アリゾナ州ツーソン、カリフォルニア州フラートン、テキサス州マッキニー、キャンベラ（オーストラリア）、ワルシャワ（ポーランド）にこうした施設があります。いずれの施設も、最新・最高の技術とともに進化を続けています。

セラフィニはさらに次のように述べています。「世界中どこの拠点からでもデジタルエンジニアリングに対するレビューを完結させ、2D、3Dデータをリアルタイムに共有できるので、どこにいても緊密な連携ができます。スタッフが自宅からリモートワークしていても、重要人物が別の拠点にいても大丈夫ですし、複数のセンター間を繋ぐこともできます」

レイセオン・ミサイルズ＆ディフェンスは、イマーシブ・デザイン・センターで次のようなことを行っています。

• 事業開発：新コンセプトの検討、インタラクティブな事業構想（CONOPS）、モデリング、シミュレーション、分析レビュー、プログラムレビュー

 「顧客の具体的な活動領域を基に関心事項を詳しく描き出し、現在の資産と将来の脅威も考慮しながら、多層防衛システムを導入するメリットを現実的に示すことができます。当社は忠実度の高いモデリングとシミュレーションを使用して製品構想を行っています」（セラフィニ）

• 設計と生産：モデルベースのレビュー、施設の設計とレイアウト、製造と組み立ての設計、プログラムプランニング／TIM、バーチャルトレーニング

 「フルスケールでバーチャルレビューを行うことで効率の向上、設計上のリスク低減とともに、現実世界で生産に入る前の設計改善が可能になります。その上当社チームは、顧客にとってより適切に機能し価格的にも一段と手頃な、強力で画期的なソリューションを考案することができます」（セラフィニ）

• アウトリーチ：コミュニティへのアウトリーチと従業員トレーニング

 イマーシブ・デザイン・センターはまた、レイセオン・ミサイルズ＆ディフェンスがSPY-6レーダーを生産するアンドーバーの3万平方フィートのレーダー開発施設の設計においても活用されました。

「これは非常に重要でした。SPY-6のレーダーアレイは非常に大きく、ロボットによる昇降や移動を適切に行える十分なスペースを確保したかったからです」とセラフィニはコメントしています。

このレーダー開発施設はいわゆる「コネクテッド・ファクトリー」です。これは、デジタル技術を活用し、サプライヤーも含めて人、機械、センサー間でシームレスに情報を共有する工場を意味します。

高速生産を実現するため、レイセオン・ミサイルズ＆ディフェンスは工場の垂直統合を行っています。この工場では複数の製品ラインをサポートし、それぞれ同じプロセスに従っているため、あるシステムから別のシステムへの転換が容易にできます。

レイセオン・ミサイルズ＆ディフェンスのプログラム・オペレーションズ・マネージャー、ブレンダン・ハムは次のように述べています。「当社は統合防衛ソリューションを提供するトップ企業として、最高のマインド、システム、能力を結集させ、SPY-6を始めとする次世代ソリューションを生み出しています。その実現を後押ししているのが、デジタルスレッドと工場の垂直統合です」

さらに自動化にも目を向け、通常手作業で行われる組み立て作業にロボットを使って業務の効率とアジリティを向上させることや、自動画像検査を実施することを目指しています。

「自動化は精度を向上させるほか、再現性も非常に高くなります」とハムは述べています。

自動化工場では多くの場合24時間365日生産が行われますが、これが人の仕事を奪うことはありません。そうではなく、人の仕事のあり方を変えるのです。

この巨大な工場では多くの部分が可動式になっていて、AI搭載ロボットを使って、ある場所から別の場所へとシステムを移動させることができます。

「工場全体を精密にマッピングしているため、ロボットはその全体のイメージを把握しており、マップ上で変更があっても対応できます」とハムは述べています。

世界的な供給問題がもたらす影響をいくらか軽減するため、レイセオン・ミサイルズ＆ディフェンスは、自社の金属製造工場で必要部品を生産したり、また窒化ガリウム技術の生産においても同じことをしたりと、内部で対処する方法を探っています。

効率を向上させるためのもうひとつの手段が、RFID（無線周波数識別）技術です。この技術は、資産と原料をリアルタイムで追跡して現場の可視性を高め、生産を合理化します。

ハムは次のように述べています。「工場に届く荷物は1日に500～600個にも上ります。そのため、工場内を移動する各パッケージを追跡可能であることが重要になります。RFID技術によって、生産現場を手軽に可視化できます」

現代の海軍レーダーは基本的に、航空機、ミサイル、ドローンなど、常に進化する標的を追い続けます。そのため、海軍で使用するソフトウェアも、従来の軍事開発サイクルで可能なレベルを遥かに超える速度で変化しなければなりません。

アジャイルなソフトウェア開発手法はイノベーションやイテレーションを迅速に行い、艦隊を最新状態に保って脅威の上を行くことを目的に採用されています。

レイセオン・ミサイルズ＆ディフェンスは、アジャイルやDevSecOpsなどのソフトウェア開発手法をクラウド・コンピューティング・アーキテクチャとともに提供し、SPY-6向け能力の開発、統合、試験、納入を繰り返し、継続して行っています。この一連の流れを数日のうちに実行することもあります。

開発者はまず基本バージョンの機能を構築してから、そこに迅速かつ継続的に改良を加えていくということができます。それは、民間のテクノロジー企業が、スマートフォンやアプリに頻繁に機能を追加していくのと、ほぼ変わりはありません。

SPY-6を維持するもうひとつの方法は、既存の駆逐艦に新しいハードウェアを搭載することです。ただし、こうしたアップデートを実際に行うにあたっては、事前に3Dデジタルツイン、レーザースキャン計測データ、アバターを使い仮想環境内で検査・製造する必要があります。

「艦内はスペースが限られているため、システムが収まり、正しく接続されるよう徹底するとともに、例えばアップデートのため、配線類に手を伸ばしたり繋いだりするスペースに人が入れるようにする必要があります。切り離された場所がないことが重要なのです」とセラフィニは言います。

ハードウェアとソフトウェアのこうしたアップデートにより、SPY-6に新たな機能が導入され、機能が改善されます。

「アップデートはシステムの寿命を引き伸ばし、顧客に最新鋭の能力を提供します。さらに重要なのは、これによって人命を救えるということです」